午前外来に、70歳台の女性が飛び込んできました。
昨日夜にムカムカ吐き気がして、横になったら天井の電気がグルグル回る。血圧を測ったら、いつもは100/50-60mmHg台と低めなのに、その日は130/85mmHgと高め。
心配で心配で…大あわてで来院。今は回転性めまいも落ち着いており、来院時の血圧も110/70mmHgといたって落ち着いています。
医学的には心配がない可能性が高いとお話しても、
「血圧が高いせいで、めまいが出たんじゃでしょうか?!」
と、なおも不安そう。
患者さんの心配:血圧が高い→めまい
血圧が高いことで症状が出るケースはあまり多くありません。めまいなどの症状があってストレスがかかっているために交感神経優位になって血圧が上がっていることがほとんどです。
医学的正解: めまい(ストレス)→血圧が高い
因果関係の解釈が、逆なのです。
こういう時、患者さんの心配・不安と、医療者が感じる重症度の間にギャップが生まれます。
「医学的に問題ないですし、血圧の薬は不要です。」
医学的にはこれが正解なのですが…。さくっとこれだけを伝えて外来が終わると、患者さんの中にはモヤモヤが残ることが多いです。
一晩「重症な病気なのでは…」という不安と共に過ごしたのに、大したことがないと軽く扱われたように感じ、気持ちを受けとめてもらえなかったように感じてしまうのです。
今日の患者さんもよく話を伺うと、自宅に介護を要する家族がいて、1時間おきにトイレに起こされてと付添わないといけないという事情がありました。また父親が高血圧がらみの脳疾患で亡くなられており、自分もそうなるのでは…と心配が大きくなったようです。まずはこちらの説明よりも、本人の不安な気持ちを受け止めることがスタート。
反応性の軽度の血圧上昇は、医学的には心配ないこと、血圧が上がったことで突然バタンと倒れる可能性は非常に低いことを説明するのは最低限の説明事項です。それに加えて、一人で昼夜問わず介護を担うことが、介護負担として大きいのかもしれないので、その辺りを何とかできないか?の相談をすることも必要かもしれません。今回は、まためまいが再燃した時に備えて五苓散という漢方を処方しました。これはめまいへの処方であると同時に、「何かあったらどうしよう」という不安を持つご本人の安心材料になればという意味も込めての処方です。これから先1週間、家庭血圧を測定・記録して来院して頂き、その後の状況もフォローすることとしました。
このようなやりとりは地味で、重要性が低い診療ととらえられがちです。でもこのようなコミュニケーションがなければ、不安が強くなった患者さんが、次回は夜間救急外来を頻回に受診することになります。救急外来の現場を、本当の意味で緊急度・重症度が高い方のためにあけておくという意味で、このような方への丁寧な対応は、町医者の大切な役割だと思っています。
AIの発達により医学的な緊急性・重要性の判断はAIが担うようになる未来が想定されます。ただ、目の前の方が何を不安に思い、どうしてほしいのか?そんなコミュニケーションに関する部分は、AIには担えない!と自負しています。
【今日の食事】
朝:ココナツミルクコーヒー・ミックスナッツ・Kiriクリームチーズ
昼:豚肉ともやし炒め・目玉焼き・ホタテのバター焼き・麻婆豆腐
よい一日をお過ごしくださいね。