外来で、認知症のお母さんを介護する
娘さんから、相談を受けました。
「母は私のこと、妹だと思っています。」
見た目もぜんぜん違うのに…。」
おばさんはお母さんと同年代。
女性として、フクザツな気持ちは、
わかる(笑)。
「妹の亡くなった旦那さんのことを、
〇〇さんは元気なの?って聞いてきます。
もう亡くなったんだよって、
真実を伝えた方がいいんでしょうか?」
まじめな介護者ほど、
「真実と異なること」を口にしたりすることを
誠実でない、とためらうのはよくわかります。
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お母さんは、それなりに認知症が深い方。
「お母さんの心は、若かった頃の時代に
戻っているのかもしれません。」
とお答えしました。
『「痴呆老人」は何を見ているか』(大井玄 著)と
いう本で、こんな風に書かれています。
認知症のお年寄りは、
「元気だった頃の自分や
自分を取り巻いてきた人たち」という
世界を自分の中に形づくることで、
目の前の現実と折り合いをつけ、
心を守っているのでは、と。
そんな人に
「何言ってるの。
ここは老人施設でしょ。」
「〇〇さんは10年も前に亡くなったでしょ。」
と現実をつきつける行為は、
その人がかろうじて守ろうとしている
世界と心の平穏を脅かしかねないと。
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なるほど…と思いました。
私はこの本を読んでから、
その方の世界にあわせよう、と決めました。
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とある宅老所の施設長さん。
以前私が仕事で電話をかけた時、
その日お泊りの利用者の女性に
ほいっと携帯を渡しました。
「××さん、お父さんだよ。」
夕方になってそわそわしてきた女性。
「お父さん?」
とつぜんお父さん役を振られた当初は
え?私、お父さん?!
って言うか、男じゃないし…!!!笑
1回やけくそになってやってみた。
私「お父さんだよ。」(太い声で)
女性「お父さんじゃないでしょ!」
私「お父さんだよ!信じないのか?!」
女性「え…お父さんなの…?」
私「そうだよ。
おまえ、ちゃんとご飯、食べたか?」
女性「うん…。」
私「しっかり食べて、ゆっくり寝るんだよ。」
女性「はい。」
女性の声が、とても柔らかくて。
その場しのぎかもしれない。
でも、彼女の心がその瞬間に満たされて、
おだやかな気持ちになれるのであれば、
それはそれでいいかな、と。
お父さん役、喜んでやります♪
今日もいい日でありますように。