認知症診断で一番大切なのは…

私の外来には、連日のようにもの忘れが心配という方が来られます。

「認知症かもしれないから、先生に診てもらえって息子に言われて…。」

親孝行な息子さんですが、惜しい!というのが本音です。

 

そもそも、認知症かそうでないかの判断はどのようにされるか、知っていますか?

実習に来ている5年生の学生さんに聞いてみたら、「CTですかね。」と答えてくれました。期待どおり、不正解です。正解は、ご家族の話(病歴)と、長谷川式認知症スケールというテストです。もちろんCTも参考にはしますが、CTは決定打ではありません。

 

  • 家族の話

 認知症は忘れっぽくなる病気ですが、早い段階から、かなりの確率(8割以上)で「それ以外の変化」が一緒に起こっています。

 

たとえばこんな症状。

・忘れっぽくなったのにそれを認めない  

・落ち着かない

・被害妄想 

・買い物のミス   

・性格の変化(怒りっぽくなった)

・幻覚

大切なのは、「前とは違う」という‘変化’です。‘その人らしさ’がなくなったとも言えます。

 

部屋が散らかっていたり、夕食のおかずが一品しか出てこないのも、昔からそうなら単なるズボラな人ですが、数年前まで家の中がきっちり片づいていたり何品も料理を出すような几帳面な主婦だった方が身の周りに構わなくなったら、あれ…と思いますよね。道に迷うのも、方向音痴の私なら日常茶飯事ですが、若い時に‘人間ナビ’なんてあだ名がついていた男性が行き慣れたスーパーに行くのに迷ったら、それは一大事です。

物をなくしてしまうというエピソードについては、それだけで絶対に認知症だとは言い切れませんが(頻度にもよります)、なくした物を「嫁に盗られた」と言い出した場合には、認知症と診断せざるを得ません。物盗られ妄想というアルツハイマー型でよくみられる症状だからです。

 

ふつうご家族は、1つだけの変化ですぐに病院を受診することはありません。あれ?気のせいかな?年のせいだし、疲れていたらそんなこともあるよね…でもやっぱり…と小さな違和感が積み重なって、ようやく受診ということが多いのです。長年一緒にいる人がやっぱりおかしいと病院に連れてきた場合には、認知症である可能性が高い、と疑ってかかれと河野先生は言っています。きちんと診察もしないで「年をとればそんなものですよ。」と家族の訴えを退けてはいけないんですね。

 

認知症診断において、ご家族の話は参考程度などではなく非常に非常に重要なのです。ですから、家族が認知症かもしれない…と心配して診てもらいたい場合には、かならず本人をよく知る方が同席してください。取り繕いが上手なアルツハイマー型の方では、診察室では人当たりがよく穏やかなのに家では全然違った様子…ということもあります。一人で来院されると医療現場としては「情報が足りない…」と残念なのが本音です。ご家族が遠方にお住いの場合、毎月診察に同行するというのは難しいでしょうが、少なくても最初の診断の時だけでも同行することをお勧めします。

中には病識(自分が病気である、という認識)がない認知症の方で、目の前で家族が気になることを伝えると、不機嫌になったり怒り出したりする方がいます。怒った時の怒り方も診察上参考になるのですが…それは気まずいわ、という場合には、事前に情報(気になることや以前との変化)を紙にまとめて診察時に手渡しする、という方法も賢明なやり方です。