コロナ騒ぎで忙しい時期に夏季休暇に入ってしまいすみません。
最近読んで面白かった本のご紹介をします。
アルツハイマー征服 (下山 進)角川書店
中核症状改善薬のアリセプトから
最近の新薬アデュカヌマブまで、アルツハイマーに関する薬剤開発の経緯が克明につづられた
ノンフィクションです。
ものすごく質がいいノンフィクションで、
これを世に送り出して頂いたことに直接お礼を申し上げたい。
日ごろ認知症の薬剤処方を行っている立場としては、とにかく興味深かった!
面白すぎて、一通り読んだ直後興奮さめやらず、もう一回り読み直しました。
ほぉーへぇ~…という場所にアンダーラインをひいたりページを折る習慣があるのですが、
最初から最後までラインと折り跡だらけ。
アルツハイマー治療の歴史を学んで俯瞰するのに最良の教科書です。
全体を俯瞰しての感想。
それは…
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そりゃあ…そうなるわな。
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しょぼい感想すみません!笑
新薬開発の競争の過酷さです。
アルツハイマーは世界を揺るがす社会問題。
悩み苦しむ方も多い分、新薬が切望され、
世界中の研究者がしのぎを削っています。
新たな真実を発見し世に放つことで
歴史に名を残せ(名声)莫大な富が流れ込んでくる。
でも栄光を手に入れられるのは‘最初のひとり’だけ。
製薬会社に所属するほとんどの研究者は、
何十年という職業人生をすべて捧げ一つも新薬を送り出せずにおわる。
どれほどいい線いっていようと、明日事実を発表できようと
今日誰かが先に発表してしまえばすべてが水の泡となる。
そして研究には、何百億という莫大な予算がかかり
資金をひっぱってこられるか所属する会社の基盤の安定にも翻弄される。
そのプレッシャーのためか
精神を病み、情報捏造など誤った方向にいく研究者も出てくる。
想像以上に過酷ですよね。
その中で頭角を現す研究者は、やはり凡人と異なる人たちで。
デール・シュンク氏という研究者が京都に来た時。
バスに乗って窓のわきに赤いボタンが設置されていて。
「なんだろう?」と思ったら、
もう押さずにいられない。
周囲が止める前に押してしまい、バスを緊急停止させたという事件が。
子どもか!笑
病的に好奇心を抑えられない、真実を知りたいという探求心がある人たちなんですね。
このような研究者は、科学の進歩のために必ず必要な存在です。
彼らがいなければ、私たちはいまも結核で数年間にわたり天地療養していたでしょう。
科学の‘光’の部分です。
その上であらためて。
臨床医が果たさなくてはいけない役割もある。
それは…
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目の前の患者さんの
命と暮らしをまもること。
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1000名単位の症例、データ解析の有意差では
埋もれてしまう大切な真実が、現場にはあるんです。
新薬を通すための治験では
「投与量〇mgでは有意差が出ない。」
「×mgに増やしたら有意差が出た!!」
この一点で止まるか進めるかが決まる。
「その薬を飲むことで患者さんが幸せになったか?」
という結果は、そこでは一切求められていない。
本の中でも、
アリセプト10mgで
「トイレットペーパーに火をつけるようになった」
という報告があり、高容量の設定に反対する声が書かれています。
目の前で一人一人と年月をかけて向き合わなくては知りえない部分もあります。
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巨大な富と名声の流れの中で世に放たれた新薬が、
本当に目の前の大切な人を幸せにしているか?
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そう思えないのであれば
エビデンスに囚われず毅然と「NO」と言うこと。
最初は小さな声で誰にも聴いてもらえなくても、
声が届くまで言い続けること。
それが現場で薬を処方する者の使命なのかな、と。
科学者は「未来に救える多くの命」にフォーカスします。
一方で町医者は「いま目の前にいる方の命と暮らし」にフォーカスします。
でも本来は、研究者も町医者も、見たい未来は一緒のはず。
希望をもちながら今日もやれることを一つずつ。
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それでは、よい夏をお過ごしください。