パイオニアへの敬意

私の糖質制限との出会いは、かれこれ10年前。

褥創の治療に手こずって、夏井先生の「消毒せずに傷を治す」というホームページを見ていたら、そこで紹介されていた気がする。(うろ覚え)

糖質制限という言葉の生みの親でもある江部先生の、『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』という本に巡り合いました。

医学部5年の時、私は一応糖尿病に興味をもっていて、やる気満々で実習を始めたのです。

糖尿病は生活習慣病だから、内科の真価が発揮できる病気!!!

でも実習を始めて早々につまづきます。

理由1)カロリー制限が理解できなかった

「糖尿病は血糖が高くなる病気である。」→「食事のカロリーを控えましょう。」

血糖とカロリーのつながりが、よくわからない。

理由2)指導医が、太っていた

糖尿病の肥満の患者さんが、血糖を落とすために教育入院していました。

「あなたは食事がダメだから、こんな食事をしてください。」

そう指導する主治医がものすごく太ってるって…説得力ないでしょう!

「そんなにいい食事なら、自分が食べて痩せたらいいのに。」

と指導される患者さん男性がぼやいていたのを、確かに…と思いながら聞いていた私。

カロリー制限の問題点 – YouTube

なんだか糖尿病の食事療法って、うまくいっていないな~という印象と共に、私の糖尿病診療への興味は急速にしぼんでいきました。

そこから10年以上たって、江部先生の本を読んだ時に、

「糖尿病は血糖が高い病気。血糖を上げる糖質をとらなければ、糖尿病はよくなる。」

このシンプルな一文を読んだ時に、医学生時代のモヤモヤが一気によみがえり、だから私はカロリー制限に納得できなかったし、主治医も太っていたのか!!!と衝撃を受けたのを覚えています。

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今回久しぶりに江部先生の本を読み直して、あらためて感じたのはその先見性。

江部先生が高雄病院で実践を始めたのが1999年。

当時は糖質制限という言葉もなく、カロリー制限全盛の時代です。

医学界の中でも糖質制限は危険視されていました。

糖質制限を行う産婦人科の宗田先生もその書籍の中で、学会で糾弾されてプレゼンができなかったなどのエピソードを書かれているように、かなり妨害や脅しに近い目に遭われていたとお察しします。

そんな中でも既存の権威にひるまずに情報を発信しつづけてこられた開拓者である江部先生に、心から敬意を表します。

江部先生のやり方を、エビデンスを組み立てずにWebで情報発信して…という論調で批判された医師がいます。その先生は糖質制限についてエビデンス構築に尽力されており、それはそれで素晴らしい功績ですが、江部先生の積み重ねてきた実践と情報発信がなければ、エビデンス構築の基盤はつくられなかったことも事実です。新たな事実はN=1(目の前の一人の症例)から始まります。